「詠、どうしたんだろ……」

美浜家までの道を、急ぎ足で歩く。

今日の詠の様子は、明らかにおかしかった。

だからせめて、わたしが元気づけてあげられればと

家に呼んだのだけど。

なのに、いつまで経っても詠はうちにこなくて。

心配になったわたしは、何度も電話やメールをしたけど、

それでもダメで。

けど、来られなくなったのなら連絡くらいくれるはずだ。

詠はその辺しっかりしているというか、几帳面な子だもの。

「っ……」

それも無いため、怖くなったわたしは

直接詠の家に向かっていた。

「えっと……」

詠のお母さんが再婚して以来、家には行っていない。

その為、焦りながらも少し忘れかけつつある道を

早足で歩いていると。

【歌音】










【歌音】



【歌音】

「あの」

「えっ? えと……?」

不意に、お人形さんのように綺麗な金髪の女の子から

声を掛けられた。

「詠さんでしたら、もういません」

「……いない、ですか?」

唐突に出される、詠の名前。

この子、詠の知り合いなの?

けど、いないって……?

「彼女は、苦しんでいた毎日から解放されたのです。
 ……お願いです。そっとしておいてあげてください」

「あ、あの……?」

どういうことかと問いただそうとしたところで、

携帯が震える。

取り出して画面を眺めると……。

「え……? あ、詠っ!?」

急いで画面をタップすると、長い長いメールが開く。

「……なに、これ?」

ただ、あった事実を伝えようと努めているんだろう。

そこには、淡々とした文章で家族とのことを書いた

詠の告白があった。

「そん、な……」

そこには、信じられないようなことが書かれていた。

新しい父親から日常的に犯されていたこと。

前の父親の残したお金がほぼ使い込まれていたこと。

そして……家族と血が繋がっていなかったこと。

何一つ、わたしの知らない話だった。

だから、詠のジョークと笑い飛ばしても、

仕方の無い話だろう。

けど……。

「あ……あ、ああ……」

ひとつも嘘だと思えなかった。

それは、近くで見てきたわたしが知っている。

詠が無理して平気そうに振る舞っていたのは、

ここに書いてあることを私に知られたくなかったんだ。

「よ、み……詠、詠……!」

涙が溢れ、滲む視界。

けどダメだ。詠がそんな辛い思いを抱えているのであれば、

わたしがすることはひとつしかない。

【小夜】

【歌音】



【小夜】

【歌音】




【小夜】


【歌音】




【歌音】


【歌音】




【歌音】









【歌音】





【歌音】

「行かなきゃっ……!」

「待ってください。
 さっきお話したとおり、彼女はもうあの家にはいません」

「じゃあ、どこっ!?
 詠は、どこにいるんですかっ!?」

「……言えません」

「知ってるなら、教えてください!
 詠が悲しんでる! わたし、行ってあげなっ……」

突然、意識が薄らいでいく。

「え……? な、に……?」

ジワジワと目の前が真っ暗になっていき、

上手く舌が回らない。

「ごめんなさい……彼女からの、伝言です」

「よ、み……」

【歌音】

【小夜】


【歌音】


【小夜】

【歌音】



【歌音】



【小夜】

【歌音】

そうして、意識の途切れる瞬間。

最後に耳へ届いた言葉は、あの女の子の声か。

それとも、詠の声か。

ただ、はっきりと。

『友達になってくれてありがとう。さようなら』

……そう、聞こえた。

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