ボーッと過ごす、いつもの日常。

誰からも相手にされない、私が唯一心安まる時間だ。

なのに。

無情にも、強制的な終わりを告げられる。

「…………」

わいわいと楽しそうな様子で教室を出て行く、

ろくに会話もしたことのないクラスメイト達。

それを見るともなしに見ながら、今日も私は1人、

じっと机から動かずにいる。

あの家に帰るくらいなら、この教室で夜を明かした方が

ずっとマシだ。

そう思うくらいには、自宅に帰るのがイヤになっていた。

「よーみっ」

けど、そんな私へ楽しげに話しかけてくる子がいる。

「歌音……」

「今日も教室シック?」

「なに、教室シックって。
 教室にいるのがイヤな人?」

「ううん、逆。教室にいないと死んじゃう人」

「私、そこまで学校好きじゃないけど」

「えぇ? いつも放課後、なかなか帰ろうとしないくせに?」

「いいでしょ、別に。歌音こそ帰らないの?」

「帰るよ?詠が帰るならね」

「……あ、そ」





【詠】








【???】


【詠】

【歌音】

【詠】


【歌音】

【詠】

【歌音】

【詠】

【歌音】

【詠】

杠歌音……私の幼なじみ兼、全世界の中で

ただひとりの私の友人だ。

歌音自体がどう思っているかは知らないけど、

少なくとも私はそう思っている。

「もう、友達作らないからそうやってどんどん
 変な病気を抱えちゃうんだよ?」

「教室シックを病気とかゆーな」

そもそも歌音が勝手に言っているだけだし。

「それにね、別に家じゃなければ教室じゃなくてもいいの。
 渡り廊下だって、校庭だって構わないし」

「じゃあ、学校シック?」

「ただの学校大好きな人じゃない、それ」

「ふふっ、友達いないのにね」

「ハッキリ言うね、歌音……。
 と言うか、元々友達を作る気もないからいい」

この前こっそり確認したお父さんの貯金額を見る限り、

いつ自主退学をしてもおかしくないくらいで。

歌音以外と仲良くなる気は無かったけど、余計に友達を

作る気にはなれなくなっていた。

「なんで?詠、喋れば根暗な上に性根が曲がってて
 面白いのに」

「アンタ、それ褒めてんの?」

「もちろん。詠ってば、とっても可愛いもん。
 彼女にしたいくらいっ!」

どう聞いても、バカにしているとしか思えないが、

歌音の言うことだ。言葉通り本気なのだろう。

「悪いけど、ソッチの趣味は無いの。想像でなら
 何されても良いから、独りで慰めていてくれる?」

「独りで……って、も、もうっ!
 詠は可愛いんだから、えっちな事は言っちゃダメ!」

「あー、ハイハイ」

歌音は案外ウブなため、この手の話に弱い。

だからこうして、すぐに恥ずかしがってしまう。





【歌音】


【詠】


【詠】


【歌音】

【詠】

【歌音】

【詠】






【歌音】


【詠】

【歌音】




【詠】


【歌音】

「言っちゃダメ……か」

いつも、あのクソ親父に『マンコいっぱいにして』とか

『クソ穴でチンポしごいてください』とか言わされてるって

知ったら、どんな顔するかな?

……なんて、口が裂けても言えないけどね。

「もう……詠ってば、いつからそんなえっちなことを
 言うようになったの?昔はもっと暗くて、
 可愛かったのに……」

「今の方が可愛いでしょうが」

「あれ、聞こえてた?」

「目の前で独り言をいわれればね。
 あと、昔よりも確実に暗いと思うんだけど」

「そうだっけ?何年も前のことだから、
 美化されてるのかも?」

「悪化の間違いじゃないの?」

気心の知れた、腐れ縁と言う仲なのかもしれない。

それだけ、歌音は私のことをよく知っていた。

母親がおかしくなっていること。

それと……あのクソ親父にされていること以外は。

「けど、まだおうちに帰りづらいの?
 オバサンも、もう再婚してずいぶん経つよね?」

「まぁ……うん」

歌音には、私とあのクソ親父が上手くいっていない

ということにしていた。

本当の事を話して、うっかり歌音まで巻き込まれでも

しようものなら、私は自分で自分が

許せなくなりそうだったからだ。

【詠】





【歌音】



【詠】

【歌音】

【詠】


【歌音】


【詠】





【歌音】


【詠】

「あーあ……あのサイトが本当にあれば、
 詠の家も上手くいくかもしれないのに」

「あのサイト?」

「あれ、知らない?今けっこう噂になってるんだけど」

「私に友達がいないことを知ってて言ってるの?」

「あはは、ごめんごめん。そうだったね」

納得した歌音は、少し真面目な顔をして

その噂とやらを私に語る。

「あのね……そのサイトにアクセスしてお願い事を伝えると、
 なんでも叶うらしいの」

「神社?」

「サイトだって!神社じゃないよ!」

「だってそれ、ようは神社じゃないの?
 とうとうネットで参拝する時代が来たのね……」

「しないから! もう……噂の腰を折らないでよ」

話の腰ではなく、噂にも腰があるのかと驚かされる。

「で? 歌音は、そのよくわからない噂話を信じてるの?」

「わたしは信じてなんかいないけど……。
 隣のクラスの友達が言ってたの」

「ふーん?けど、なんでも叶うとか言われてもねぇ。
 石油王とかにもなれるの?」

「それはわからないけど、友達が言うには
 恋が実ったとか、資格試験に合格したとか言う例が
 あったんだって」

「ますます眉唾ね……恋愛なんて自分が意識してたら、
 相手もそれを感じてなんとなく意識しちゃうんじゃない?
 資格試験だって、単に努力の結果だろうし」

「詠は夢が無いなぁ」

「歌音が夢を見過ぎなだけ。で、他に例はないの?」

いい加減、歌音のくだらない話にため息が出そうになった頃。

会話を伸ばしていたい私が、

なんとなくそう問いかけてみると。

「他には……えっと。
 嫌いな人を呪い殺せた、とか」

【歌音】


【詠】

【歌音】

【詠】

【歌音】



【歌音】


【詠】

【歌音】

【詠】


【歌音】


【詠】

【歌音】


【詠】


【歌音】



【詠】



【歌音】

【詠】




【歌音】

「……は?」

そんな物騒な答えが返ってきた。

「だから、呪い殺したんだって。嫌いな人を。
 けど、その人自身も何て言うか……」

「なに? どうにかなっちゃったの?」

「うん。その……行方不明になったんだって。
 願いの叶ったその日に」

行方不明……?

「えっとね―――」

そうして、歌音は自らの知る噂話を語り出す。

「―――って言うこと、みたいなんだけど」

「…………」

歌音の話は、荒唐無稽と言えるほどぶっ飛んではおらず、

かと言ってリアルな話かと言われればそうとも言えない、

不思議な存在感を持っていた。

先月にあった、2つ隣の市の会社員惨殺事件。

その更に隣の市で起こった男子生徒グループ殺害事件。

いずれも犯人はつかまっておらず、また同時期に関係があると

思われる人物が失踪しているそうだ。

どうやら、願っていた死が実現した結果、

良心の呵責に耐えきれなくなり姿をくらましたんだろう……

と言う噂になっているらしい。

「ま、自分で言っておいてなんだけど。
 単なる都市伝説だと思うな」

「……そうだね。そんなこと、あるわけないよ」

そう応えたものの、頭の片隅では何かが引っかかっていた。

「というか、歌音。そもそも私にそんな怪しいサイトを
 見せて、なにを願わせるつもりだったの?」

「んっと……家庭円満?」

「やっぱり神社じゃないの」

「違うよ、だからサイトだって」

「はいはい、わかったから……ほら、そろそろ帰るよ。
 もうすぐ暗くなっちゃう」

「もう、詠は夢が無いなぁ」

「それはさっきも聞いた」

帰宅の準備を整えた私は、歌音より先に教室を出ようとする。

「あっ……待ってよ、詠っ!」

「待ーたーなーいっ」

けど、歌音が追いつくようにゆっくりと歩く。

「ふふっ……」

「なに笑ってるの、歌音。
 そっちの趣味は無いって言ったでしょ?」

「そ、そうじゃなくって!」

くだらない……本当に、心安まるどうでもいい話をしながら、

私たちは帰路に就く。

しかし頭の中には、歌音の言う

『願いを叶えるサイト』のことが

どうしてか、こびりついたままだった。

【詠】


【歌音】


【詠】

【歌音】



【歌音】


【歌音】

【詠】











【歌音】


【詠】


【詠】


【歌音】

【詠】

【歌音】

【詠】


【歌音】

【詠】


【歌音】

【詠】


【歌音】

【詠】


【歌音】

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