私は、今日も学校へと向かう。

まるで、今までの日常を求めるかのように。

「…………」

あんなことがあったというのに、いつも通りに登校する

自分は、少し不思議な感じだ。

もしかしたら、今日や明日にでも売られるのかもしれない。

なら、本来は学校なんかに来ている場合じゃないはずだ。

それこそ、神浦さんから昨晩言われたように、

警察にでも駆け込むべき内容だと思う。

けど……。

「おはよ、詠。今日は一段と元気ないね?」

「あ……かの、ん……」

毎日会っていた、大切な友人の顔を見た私は、

少し泣きそうになってしまう。



【詠】








【歌音】

【詠】

「どうしたの?どこか痛い?」

「っ……う、ううん。なんでもない。
 ちょっと、夜更かしして眠いだけ」

「えぇ?ダメだよ、そんな不健康な生活してちゃ。
 それ以上ほそくなってどうするの?」

「そう……だね」

「……あれ?それだけ?」

いつも、何かと言い合いになるはずの私たちの会話。

けど、いつ売られるかわからない状態の私に、

それは出来そうも無い。

「ね、詠。本当に夜更かし……なんだよね?」

「……そうだよ。眠れなかったの」

「うん……そっか。ならいいの。
 具合悪くなったら、保健室連れて行くから。
 言ってね?」

そんな言葉を残して、歌音は席へと戻っていく。

ダメだな……あんまり、心配掛けないようにしなくっちゃ。

よっぽど、私が近寄りがたい空気をまとっていたのか。

結局、それから放課後になるまで

歌音が私に話しかけてくることはなかった。

「あの……歌音」

「え?あっ……な、なにっ?」

余りする機会のない、私から歌音への呼びかけ。

久々のことで驚いたのか、一瞬だけ身体を震わせた。

「あのね……その」

歌音を巻き込みたくない。

けど、私が頼れる人は歌音しかいない。

その、相反する気持ちに耐えかねて、つい歌音に

話しかけてしまったけど……。

「ん……っと」

「詠……?」

私は、よっぽど不安な表情をしているのだろう。

歌音は、心配そうにこちらを見る。

「……ごめん。なんでもない」

「あ……」

やっぱりダメ。歌音に頼るのはいけない。

そう思い直した私が、席に戻ろうとすると……。

【歌音】

【詠】


【歌音】


【詠】

【歌音】




【歌音】

【詠】

【歌音】








【詠】

【歌音】



【詠】





【詠】

【歌音】



【詠】

【歌音】

「詠っ!」

「なに?」

「今日さ、パジャマパーティーしよ?」

「……え?」

パジャマ……って。

「ほら、寝不足なんでしょ?なら、わたしが
 ぐっすり眠れるように、こわーい話をしてあげる」

「い、いや、でも、その……」

なんて答えたらいいかわからず、慌てていると。

「わたしと一緒に寝るの、いや?」

突然そんな風に、真剣な様子で聞いてくる。

「ね、答えて。詠は、わたしと一緒にいるの、いやなの?」

「あ……」

そっか。

多分、歌音は何も事情をわかってはいないだろうけど。

それでも……私の様子を心配してくれたのかもしれない。

「いや……じゃ、ない」

「ふふっ。じゃ、パジャマを持ってわたしの家に集合ね?」

「う、うん……でも、迷惑じゃない?」

「お母さんもお父さんも、歓迎するに決まってるよ。
 うちに泊まるのだって初めてのことじゃないし、
 そもそも詠のことは自分の娘みたいに思ってるもの」

「そっか……」

歌音の言葉で、ほのかに胸が熱くなる。

そして、あれだけつらくて不安だった気持ちもいつの間にか

吹き飛んでいて、逆に泣きたくなるほどスッキリしていた。

せめて、今日くらいはいいよね?

全部忘れて、歌音に甘えても……いいよね?

「帰って、支度したらすぐ行くから。
 待ってて」

「うん、わかった。
 詠を楽しませる物を用意して待ってるから。
 今夜は寝かさないよ」

「くすっ……私の寝不足を、解消してくれるんじゃ
 なかったの?」

「あ、そう言えばそうだね」

もう、こんなに心安らぐことはないと思っていたけど。

私たちは、そんな会話を笑いながら交わしていた。

【歌音】

【詠】

【歌音】

【詠】


【歌音】


【詠】


【歌音】


【歌音】

【詠】




【詠】

【歌音】

【詠】

【歌音】



【詠】






【詠】


【歌音】



【詠】


【歌音】

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