衝撃の真実を知り異形の者へと変貌する詠。
そして奇しくも彼女の『願い』は叶えられることとなるが──
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「ん……あ……」
あれから、何時間ヤられ続けたのだろうか。
気づけば、股間からはあの男の汚い汁が流れ出し、
制服はビリビリに破られていてもう着られそうもなかった。
「あーあ……」
学校へはもう、戻るつもりも無かったし、
戻れるとも思わなかったけど。
それでも、こうして形ある大事な物を壊されると、
涙が出そうになる。
「……なんで」
なんで自分だけ?
なんでみんなが普通の日常を送っている中、
こんな目に遭わなきゃいけないの?
なんで私のお父さんは死んじゃったの?
なんで代わりの父親があんなクズなの?
なんでお母さんは私を冷たい目で見るの?
なんで、なんで、なんで……!?
【詠】
【詠】
【詠】
「おい、もう連れて行くから手伝え。
また暴れられたら面倒だ」
廊下からは、あの男とクソ親父の声が聞こえる。
「あ……ちょっと、あなた。通帳とかアクセサリーが
無くなってるんだけど、どこに行ったか知らない?」
「嘘言わないでよ……前に勝手に売ってきたこと
あったでしょう!? また、お金のために
持ち出したんじゃない!?」
ああ……あのアクセサリーか。
それなら、そこのバッグの中に詰め込んであるはずだ。
けど、なんでもいいや。
最後に、夫婦ゲンカの火種を植え付けてやれたし。
「ククッ、そうだぜ奥さん。腹痛めて産んだ娘を
売った金だ。大事に使えや」
「はぁ?お腹を……?
すいませんけど、あんな娘を産んだ覚えは
全く無いですよ」
「…………?」
産んだ覚えが、無い……?
「おいおい、そりゃどういうことだ?」
「そもそもあの子は、前の夫の連れ子ですもの。
しかも夫の姉が病死して、残った子を引き取ったらしくて。
だから、正真正銘あの娘は他人です」
「生前は、夫に気に入られるため、
可愛がる振りをしてましたけど。
……ほんと、バカみたいだわ」
そん、な……。
「ククッ……クハハハハッ!!ああ、そう言うことか!
そりゃあ大変だったな、奥さん!ひゃひゃひゃひゃ!!」
「まったくです。けど……今の主人を色香なんかで
惑わすなんて。本当、悪魔みたいな娘だわ」
私は、この家の誰の子でもないんだ。
お父さんだと思っていた人は、私の伯父さんで。
お母さんだと思っていた人は、伯父さんの妻で。
そしてこの家の中には、私と血が繋がっている人なんて
誰ひとりいないんだ。
「く、くくっ……ああ、そうだ奥さん。
笑わせてくれたお礼に良いことを教えてやるよ。
そのアクセサリーだが―――」
じゃあ……うん、そっか。もう、いいんだ。
「……えっ!?あの子がっ!?」
「ああ、間違いねぇと思うぜ。家出の支度をしたバッグが
部屋にあるから、その中を見てみろ」
「あのバカ娘……最後まで迷惑ばかり掛けて!」
もう、我慢しなくて良いんだ。
「ちょっと、詠!あなた―――」
【借金取り】
【母親】
【母親】
【借金取り】
【母親】
【詠】
【借金取り】
【母親】
【母親】
【借金取り】
【母親】
【借金取り】
【母親】
【借金取り】
【母親】
【母親】
「……うるさいな」
部屋に入ってきた肉に向かって、軽く爪を立てる。
「へぐ?」
すると不思議な言葉を発し、その肉は2つに分かれた。
「へ……?」「は?お……おい、お前!何を―――」
「黙れ」
「ボぎゅッ!?」
喉に向かって腕を突き立てると、
今度は首と胴体が別々になる。
「……脆いな」
そっか。
人間の身体って、こんなに脆かったんだ。
なのに私、こんなヤツらの顔色を窺って。
怯えて暮らして。
……バカだったんだな。
【詠】
【母親】
【借金取り】
【詠】
【借金取り】
【詠】
父親だった男が、小便をまき散らしながら
急いで逃げようとする。
「ふん」
「へぐっ!?」それの首根っこを掴み、放り投げた。
「あ、ぐ……あっ……!」「最後に残ったのは、アンタか」
「ひ、ひひ、ひっ……こ、殺さないでっ!聞くに堪えない命乞い。
これが、いい気になって私を犯していた人間かと思うと
吐き気を催す。
「お、お金なら自分でなんとかする!まるで、三流映画の小悪党。
そんな言葉がピッタリの、クズらしいセリフを吐く。
……けど、残念。
「私、前からアンタの臭い息が大っ嫌いだったんだ。
だから、その息を吐くアンタは―――」
ここで、死ね。
「んぶっ!!」クソ親父の顎を思い切り蹴り上げると、
衝撃で頭蓋骨が砕けたのか、頭のサイズが半分以下に縮む。
少しだけピクピクしていたが、
そのままクソ親父だった肉塊も、微動だにしなくなった。
【詠】
【父親】【詠】
【父親】【詠】
「…………」
血だまりの中、息も切れることなく1人で立ち尽くす。
この身体は、あの子……神浦小夜さんが言っていた通り、
力を与えられたんだろう。
お陰で、こうして私の願いは叶えられたわけだけど。
「……バカみたい」
転がる、3つの死体。
それらは全て、先ほどまで生き物として動いていた。
そんな3体の人間を殺したって言うのに、
私の心は凪よりも動くことはなく、平静そのものだ。
「こんなもの、か」
人を殺すだなんて、なんてことない。
ましてや相手は、かつての私が殺したいと願ったヤツらだ。
なら、少なくとも達成感でもあればよかったのに。
……けど、なんにも無い。
「…………」
これから、私はどうすれば良いんだろう?
こんな身体になって、明日からどうやって生きていけば
いいんだろう?
私は、いったい―――
「ご心配には、及びません」
「あ……」
目を開くと、そこには全ての元凶である
神浦さんが立っていた。
「いつも突然なんだね、あなたは」
「言ったじゃありませんか。
願いが叶ったときに、お会いしましょう……と」
「そう言えばそうだったっけ」
でも、そっか。私には、神浦さんがいるんだ。
「それで、何しに来たの?」
【詠】
【詠】
【詠】
【詠】
【???】
【詠】
【詠】
【小夜】
【詠】
【詠】
「迎えに来ました」
「……そっか」
差し伸べられる手。
それは多分、お父さんが死んでからずっと願っていた、
私の全てを救い出してくれる手だ。
彼女の言葉に一切の疑問を抱かず、
自分の手を重ねる。
「……よろしいのですか?」
「うん。私には、もう何も無いから。
そもそも人間じゃなくなっちゃったし、家族もいない。
お金も無いし、友達だって―――」
そこまで言ってから、思い出す。
そうだ、私には歌音もいる。
それに、今日は……。
「ちょっと、ごめんっ」
バッグを漁って携帯を取り出すと、たくさんの着信とメール。
どうやら私が家に来ないため、心配しているらしい。
「……ふふっ」
ありがとう、歌音。
そして……ごめんね。
「さ、行こっか」
「よろしいのですか?」
「うん……けどあとで、ちょっとだけ時間ちょうだい。
何も知らない友達へ、最後のお礼をしたいから」
私の言葉に、小さく頷く神浦さん。
そうして、金髪の少女に連れられた私は、
住む者のいなくなった家を後にした。
【小夜】
【詠】
【小夜】
【詠】
【詠】
【詠】
【詠】
【小夜】
【詠】