-
「はあっ…………はあっ…………はあっ…………」
肩で大きく息をしながら、美亜は深い森の中を歩いていた。
「はあっ…………はあっ…………はあっ…………」
服はボロボロで、肌にはたくさんの擦り傷ができ、何時間も歩き続けた両足からは感覚が失くなり始めていた。
「う、くっ……」
あまりにも足が痛み、美亜は歩くのを止めた。
逃げ始めてから、果たしてどのくらいの距離を移動したのか。
気付けば森の中に飛び込んでいたが、その選択が正しかったのかどうかは、彼女自身よくわからなかった。
「何で……こんな事に……」
逃げてはいるものの、いまだに事態に対しては正確な理解が及んでいなかった。
結局のところ、今、何が起こっているのか……。
それがわからないままに逃げたのは、逃げなければ間違いなく美亜の命が失われていたからだ。
「夢じゃないの? そうじゃないと……あんな……」
-
男の体にぶつかるようにして、美亜はナイフを前に突き出した。
手のひらに硬いものを貫いたような、そんな嫌な感触が伝わってくる。
「……………………」
驚くほどあっさりと、ナイフが刺さっていた。
刃の部分が半分ほど、男の体の中に消えていた。
「ほう……」
男は、ただそれだけをつぶやいた。
美亜よりも、自分の腹に刺さったナイフだけを見つめていた。
-
「そろそろ限界のようだね。人間の脆さを痛感するよ」
「君が死ぬかどうかはわからないが、今度は私が達するまで締めてみることにしよう」
「――ぐげえぇぇぇぇッッ!!!」
宣言通り、男が美亜の首を絞めてくる。
しかし、その力は今までよりも弱い。
美亜が辛うじて呼吸できるように、わざと加減しているのは明らかだった。
「げ、ぇっ、ぶ、ぐぇっ、ぐ、べっ……!」
「私が動くたびに、奇妙な声が出るね。まるで壊れた楽器のようだ」
「もっとも、私達に音楽を楽しむといった習慣はないのでね、大して気にはならないが……」
「ぐげっ、げっ、げぇっ、ぶ、ぐ、ぐえぇっ……!」
男のペニスが美亜の子宮を突くたびに、何かを押し潰したような声が漏れる。
もはや、美亜にはどうすることもできず、ただただ呼吸のしづらい苦しみに耐え続けるしかなかった。
「(殺してっ! もう殺してよっ!! 私が悪かったから殺してよぉっ!!)」
「ぐげええぇぇぇ…………ぇぇぇぇぇ…………ッッ!!!」
最後にゆっくりと喉を押されて、美亜が完全に白目を剥く。
辛うじて死んではいないものの、まさにその一歩手前の状態だった。
「おや? 気を失ってしまったかな?」
乱暴に腰を振りながら、男が美亜の顔を覗き込む。
しかし、彼女の意識が戻ることはなく、華奢な体は壊れた人形のようにガクガクと揺さぶられ続けた。
「やれやれ、こうなってしまうとつまらないね」
-
「げぶっ……!?」
三度目。痛みで叫ぶよりも先に、口から血が溢れた。
強引に呼吸が遮られ、さらに美亜の苦しみは増した。
「……………………」
どうすることもできない。
ただただ痛くて、全身が激しく痙攣していた。
「この脆さ……今後の扱い方には注意しなければ……」
観察するように言いながら、男がさらに腕を振り上げる。
しかし、その時既に美亜の意識はほとんどなかった。
喉が血で詰まり、半分窒息している状態だった。
「……ッ!」
「声も出なくなったね。本当にそろそろ限界と言うことか……」
「それならば、他の場所も刺してみる事にしよう」
もはや美亜には届かない声で、男がそんなことをつぶやく。
そして、さらに複数のナイフを取り出すと――――
「……ッ!」
「……ッ! …………ッ!」
「………………ッ!!」
美亜の体に、何本もナイフが刺し込まれる。
胸。
性器。
そして、喉。
-
「はあぁっ、おまんこが、んあっ、擦れて、ひ、あんっ、あっ、気持ちいい、ですっ、ん、はぁっ……!」
「もっと、んぅっ、お願い、します、ぅ、んぅっ、は、ふぁっ、おちんぽで、つ、突いて、くださいっ!」
「おや、もう濡れているのかね?」
「それ、は……あ、んっ、ご主人様の、ふ、あっ、おちんぽが、ああっ、擦れて……ひぁんっ、あ、熱いっ……!」
館の男に突かれるたびに、メイドの体が小刻みに震える。
嫌がっている様子は一切なく、むしろ自分からも積極的に腰を振っているように見えた。
「ふ、あぁっ、そこ、ぁ、擦れて、あ、んんぅっ、すご、いっ、ご主人、様ぁっ、あぁっ、気持ち、いいっ、ふ、あ、ああっ、気持ちいい、ですっ……!」
「ああ、その調子だ。本当に上手くなったものだ」
「君をここまで教育した甲斐があったというものだよ」
そんなふうに言いながら、館の男がメイドの頭を優しく撫でる。今までの彼からは想像もできない行動だ。
メイドが単なる餌でないことは、美亜にもよく理解できる光景だった。
「んんぅっ、硬くて、あ、熱い、ふ、あんっ、ご主人様の、ぉ、おちんぽ、んふぁっ、今日も、とっても、ぉ、すごい、ひっ、ぼ、勃起ちんほぉっ……!」
(な、何なの、あの人……?)
メイドの口から出た言葉に、覗いている美亜は戸惑いを隠せなかった。あまりにも下品としか言いようのないセリフ。
もしかすると、館の男に強制されているのかもしれないが、いずれにしても理解できる交わりではなかった。
「はぁっ、ああっ、し、子宮の、奥に、ぃ、んんぅっ、当たる、んくぁ、ふっ、ご主人様の、ぉ、おちんぽっ、あ、あああっ、熱いちんぽが当たるのぉぉっ……!」
「気持ち、いいっ、あ、あぁっ、すごく、あんっ、おまんこっ、おまんこ、熱くてっ……ふあぁんっ、気持ちいいぃっ!」
「今日は本当によく濡れている。やはり、いつもとは違うからなのかな?」
「じ、自分でも、あ、んんっ、よくわかりません、けど……ふぁっ、ああっ、そうかも、しれませんっ!」
「体が、あ、あっ、熱くて……あふぁっ、おまんこ、蕩け、そ、あ、あ、ああっ、体の奥、にっ、ひぃんっ、響きますっ!」
「すご、ひぃっ、ああぁっ、ご主人様のぉっ、お、おちんぽっ、んあぁっ、おちんぽっ、勃起ちんぽぉぉっ!!」
(あの人……あんな人だったの?)
(ぼ、勃起ちんぽ、なんて……頭の中で考えるだけでも恥ずかしいのに……)
-
のこぎりが肉を切り裂き、グチャグチャになった肉片と血が飛び散る音だった。
スカートは一瞬にして真っ赤に染まり、夏花の体が感電したかのように震える。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!」
喉が破れんばかりの声が響き渡る。
既に夏花の目は焦点が合っておらず、口は顎が外れそうなほどに開き切ってしまっていた。
伝わってくるのは、これまでの人生で最大級の痛み。目の前が赤と白に点滅して、涙が滝のように溢れ出していた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!」
何度も悲鳴を上げた。痛みで気絶してもおかしくないのだが、夏花は意識を保ち続けていた。
スカートの赤いシミは、さらにその範囲を広げていた。
地面には赤い肉片が落ち、出血の量もどんどん増していた。
「あ、ああぁっ、あ、ぁ……ぁぁぁぁ…………」
時間が経過すると、さすがに夏花の声も弱くなっていった。
半分白目になった状態で、まるで壊れた玩具のように全身を痙攣させ続けていた。
激痛はあるが、自分の体がどうなっているのかはわからない。
性器の部分がメチャクチャに切り裂かれているなどと、今の夏花に認識できるはずもなかった。
「げぶっ……!」
のこぎりの刃は、さらに進んだ。衣服は腹部の辺りまで真っ赤に染まり、夏花は口から血の塊を吐き出した。
「げぶっ、ぅ、げっ……!」
ほとんど意識はない。だが、それでも夏花は生きている。
うじて意識を保ちながら、この世のものとは思えないほどの激痛に耐えていた。
-
次第に――――
声は――――
聞こえなくなっていった。
「あああぁぁッッ!!」
美亜の胸や腹は血で真っ赤に染まった。
服の隙間からは肉片がこぼれ、骨や臓器さえ見え始めていた。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……!」
美亜の胸に包丁を突き立てたまま、心々乃は手の動きを止めた。
常識的に考えれば、既に死んでいる状態だ。
だが、それでも安心はできなかった。
美亜の体が今すぐにでも動き出しそうで、包丁から手を離すことができなかった。
「それで終わりかね?」
「ひっ……!?」
館の男が後ろから声をかけて、心々乃の体が大きく震えた。
「もう少し念には念を入れたほうがいいのではないかね?」
「念には念を……」
「ああっ!」
「これが……なければっ……!」
美亜の腹に手を突っ込んで、心々乃は内臓を外に引っ張り出した。
引きちぎり、床に投げ捨て、足で踏み付けた。
-
それを美亜が判断することはできなかったが、痛みさえ感じる暇もなく彼女の命は散った。
全身の骨は砕け、体のいたるところから血が流れ、脳の一部が外に垂れていた。
聞こえなくなっていった。
「次も楽しみにしているよ」
美亜の死体を見下ろしながら、男は静かにつぶやいた。
-
「………………………………………………………………」
厨房に入った瞬間、目が合った。
メイドとではなく、まな板の上で仰向けになっている女性と目が合った。
「………………………………………………………………」
まるで、鬼のような形相だった。
いったいどれほどの恐怖と苦しみを与えられれば、こんな表情になるのか。
それほどに壮絶な表情で、女性の死体が美亜を見ていた。
「………………………………………………………………」
メイドの持つ包丁が、女性の皮を剥いでいた。
彼女の周りは血と肉と皮が散らばっていたが、全く気にする様子はない。
吐き気がするほど残酷な行為を、彼女は淡々と続けていた。
-
全身にあらゆる個所をローターで責められて、心々乃は大絶叫を吐き出し続けた。
顔からは涙、涎、そして鼻水を垂れ流していたが、もはやそんなものはどうでもいい。
それどころか、苦しんでいる一方で、体は連続して絶頂を迎えてしまっていた。
透明な体液が股間から何度も吹き出し、床面をびっしょりと濡らしていった。
「も、もぉ無理っ、ひぎぁっ、じぬっ、おおぉっ、ぐるび、ぃ、だず、げでっ、ああああぁっ、だずげでぐでぇぇぇっ!!」
「さて、これでどうなるかな。本当に死んでしまうかどうか、しばらく観察してみる事にしよう」
「もしも、私が飽きるまで君が生きていたとしたら……」
「その時は、また別の処刑方法を考えるとしよう」
「だ、だれがぁ、あああぁっ、だれがあぁぁぁぁぁ…………」
「だあぁぁずうぅぐえぇぇどえええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」
-
「ぎッ…………!?」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!」
「あぢゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!」
突然、鉄板の温度が上がった。
一気に火力が強くなって、二人の体を焼き始めた。
「あぎゃわッ、あっ、ぢゃ、づああああぁッ!! あ、づ、づ、づいぃッ、あづいぃぃッ、あづあああぁぁぁッッ!!」
「あづいぃッ! あづッ、あ、づッ、づあッ、あああああッッ、ぎ、ぎゃああぁッ、あああああああああああッッ!!!」
鉄板の上で、美亜と永遠生は激しく体を跳ねさせた。
あまりの熱さに、皮膚を付けていることなど不可能だった。
だが、手足の自由を奪われた状態では、完全に鉄板から離れることなど不可能だ。
どんなに体を暴れさせても体のどこかは触れてしまい、二人の体は徐々に焼けただれていった。
「がッ、あ……あ、ぁッ……ぁぁ…………ッ!」
「ひ、ぎぁッ……ぐあぁッ……は、ぎッ……ぃ…………ッ!」
美亜と永遠生の体の動きが、急速に弱まっていく。
体の前半分を焼かれて、ほとんど意識を保てなくなってしまっていた。
-
焦点の合わない目が、頭上の青空を見つめている。
心臓は半分止まりかけていたが、それでも門の罠が解除されることはなかった。
「…………ッッ!!!」
尚も罠は作動し続ける。
しかし、美亜はほとんど意識がなく、反応らしい反応もなくなっていった。
それでも、身体は反射で動いているため、遠目には美亜が門の前で一人で暴れているようにさえ見える。
「……ッ! …………ッ!! ……ッ! …………ッ!!」
今度の放電は長かった。
美亜の反応を楽しむかのように、延々と電気が流れ続けた。
それどころか――――
「がッッ!!?」
電撃の威力はさらに上がった。
門に触れた部分からは高熱が発生していたが、それでも罠が止まることはなかった。
「が、ががッ……ぐ、ごッ……ぎがッ、ががががががッッ!」
あまりにも電撃の威力が強すぎるため、美亜の意識は強引に引き戻された。
正常に戻ったわけではないが、口からは再び苦悶の声が吐き出された。
「がぐぎぐがあごおおうぐあぎあああああ…………ッッ!!」
-
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃッッ!!!!!」
もうそれしか言えなかった。
逆に言えば、まだ『痛い』と言えるギリギリの苦痛だった。
だが、それももう限界だ。
このまま締め付けが強くなれば、美亜の肉体はじわじわと傷付けられてしまう。
即ち、突き刺され、引き裂かれ、押し潰され、砕かれる。
それが、ほぼ同時に襲ってきたとき、自分がどうなってしまうのか。
美亜はそんな恐怖を抱いたが、その答えはすぐにやって来た。
つまり――――
「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!」
その激痛は同時に襲ってきた。
あちこちで嫌な音が聞こえかと思うと、美亜の全身が大きく震えた。